芸術的トマソン

私には何もありません。

「この世界の片隅に」を観た人々

この世界の片隅に」を絶賛する友人・知人がいたので観に行った。
映画館で観るのは好きだが、年に一度くらいしか向かわない。理由は単純、値段が高いから。
でも、今回は行ってよかった。
感想、レビューは他の人に譲って、今回は「この世界の片隅に」を観た人を見た話をする。

観た映画館は東京の下町に建っていた。この場所であれば空いているだろう、と思い平日昼間に向かう。
中にいたのは招待券を持ったお年寄りばかりで、館内も小さく、席も空いていた。
空咳などが気にならないだろうか、と心配していたが映画が始まってみると、それも杞憂に終わった。

静かだ。だが、ほのぼのとしたギャグで笑う。戦時中を経験した人なのか、小学校では土いじりしかしない、というセリフに笑う人もいた。文字に起こすと「ふふふ」という形だろうか。なぜだか安心するような、そんな気分になれた。
終盤では泣く声、鼻をすする音が聞こえた。
「ああ…」という声も。

エンドロールが終わると、真っ先にサラリーマン風の男性が出て行った。急いでいたのか、はたまた泣き顔を見られたくなかったのか。
老人たちを見る。
目をはらしながらも、ほっとしたような顔だった。当時を経験したのかしなかったのか、それはわからないが、思うことがあったのだろう。

この人たちは何を観たのだろう。昔見たものか、今観たすずが生きている姿か、それともこれからの未来か。
戦争という要素が入りながらも、すずの日常を丁寧に描いたこの作品を観て、何を思ったのだろう。生きてきたこと? それともこれからも生きていくこと? 

たぶん、人によって違ったり、全てを観た人がいたりするのだろう。
この作品を、恐らくは私以上に感じられた彼ら、彼女らを羨ましく思う。



えっ? この文章を書いてるお前は何を観たのかって?
今をしっかりと観ましたよ。辛いことがありながらも今を生きるすず達を、ね。


追伸:キャラメルを買いました。甘いです。あと、圧倒されたのか帰りの電車を逆方面に乗ってしまいました。ここはどこね……?
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#本棚の10冊で自分を表現する

二丁目のフィールド・オブ・ドリームス

二丁目のフィールド・オブ・ドリームス

 

野球エッセイ。どんな人の隣にも野球が存在していることを教えてくれる大切な作品。鬱でも、病気でも、隣には野球がある。

「私に、とうとう本当に野球がやって来たのだ!」

 

野球の国のアリス (講談社文庫)

野球の国のアリス (講談社文庫)

 

青少年向けの小説が文庫化。少女が全てが逆転した不思議な世界で野球をする話。読むたびに泣きそうになる。

「白いボールを投げて打って走ってるのんきな連中と、人には見えるかもしれない。でもね、誰にだって好きなことはあるだろう。どうしてかは、わからない。だけど、アリスは野球が大好きなんだ」

 

カラフル (文春文庫)

カラフル (文春文庫)

 

こちらも青少年向け。一人の人間が、自殺したが生き返った少年の体に乗り移る。物語の結末は見えているが、過程にぐっとくる。

「友達と大勢で騒ぎながら学校に行ったり、帰りにどっかへ寄り道したり。ぼくが高校でしたいのは、そういう、めちゃくちゃふつうのことなんだよ」

 

八木重吉全詩集〈1〉 (ちくま文庫)

八木重吉全詩集〈1〉 (ちくま文庫)

 

打って変わって詩集。自然と病をテーマにした詩を書き続けた八木重吉の作品をまとめたもの。家用と持ち歩く用の二冊を持っているほどには好き。辛い時に広げると、その時の感情にマッチした文が書かれている。

 

銀河鉄道の夜 他十四篇 (岩波文庫 緑76-3)

銀河鉄道の夜 他十四篇 (岩波文庫 緑76-3)

 

岩波版。表題作がいつまでも心に残り続ける。ジョバンニとカムパネルラの恋にも似た友情。あっけなくもたらされるリアルな死。ひしひしと伝わる孤独が心に突き刺さる。これほど幻想的で孤独な作品を他に知らない。

「ああほんとうにどこまでもどこまでも僕といっしょに行くひとはないだろうか」

 

不道徳教育講座 (角川文庫)

不道徳教育講座 (角川文庫)

 

三島由紀夫によるエッセイ。泥棒の専門学校を作るべきだ、など一見不道徳に思える言葉が書いてあるが、それが道徳的な結末を生むレトリックは見事。

「どんなに醜悪であろうと、自分の真実の姿を告白して、それによって真実の姿をみとめてもらい、あわよくば真実の姿のままで愛してもらおうなどと考えるのは、甘い考えで、人生をなめてかかった考えです」

「というのは、どんな人間でも、その真実の姿などというものは、不気味で、愛することの決してできないものだからです」

 

博士の愛した数式 (新潮文庫)

博士の愛した数式 (新潮文庫)

 

野球小説、と言うと語弊があるか。だが、読んでもらえればその意味がわかるはず。美しい数式と、江夏豊と、恋愛でなく家族愛でもない愛が紡ぐ物語。

完全数、28」

 

自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間

自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間"を捨てられるか (青春文庫)

 

岡本太郎の人生訓が詰まったエッセイ。心が弱っているときには、毒にも薬にもなるような本。時々読み返しては、エネルギーにしている。

「いじめられるんじゃないかという恐怖心を持つのは“人間”だからなんだ」

 

限りなくシンプルに、豊かに暮らす

限りなくシンプルに、豊かに暮らす

 

住職の方が書いた、禅とシンプルライフの本。なかなか実践できていないことも多いが、一度、全てを捨てた自分の心境に合う部分が多く、賛同しながら読み進めた。今でもたびたび読み返している。

 

残りの一冊はまだ無い。

これからたくさんの本を読み、その一冊を見つけていきたいと思う。

サブロー、あるいは、大村三郎

www.sponichi.co.jp

shun.hateblo.jp(上記のブログを拝見したら、書きたくなった)

 

泣くことはないだろう、と思っていた。

なのに、瞳が潤んだ。

 

好きなチームのベテラン選手が引退した。正直に言えば、これは予想できたことだった。引退を表明した際も、「いよいよか、お疲れ様」と悲しいより、ねぎらう気持ちのほうが強かったくらいだ。

 

でも、引退試合の途中で気持ちが変わった。力強いスイングで三振するサブローの姿。打ってくれと願った。ヒットの一本でもいい、打ってくれ。

三打席すべて三振で終えた試合の途中で彼は守備についた。そこで相手チームであるオリックスのファンが、彼のボードを掲げてくれている姿が見えた。

それだけでも嬉しかった。

直後、テレビに映ったのは巨人の選手の姿だった。サブローは、一時期巨人に在籍したことがある。だから、わざわざ来てくれたのだろう。そのなかの一人、内海がサブローのタオルを掲げている光景が見えたとき、嬉しくて涙が溢れた。

 

サブローの巨人への移籍は、"黒歴史"と呼べるものだった。在籍期間はわずか半年ほど。球団側のゴタゴタがあり、移籍してすぐに戻ってきた。

PL-ロッテ-巨人-ロッテ

名鑑などに書かれる彼の来歴のなかで"巨人"の二つは、妙な違和感を覚えさせた。でも、その短い期間、彼は慕われていたのだろう。そうでなければ、巨人の選手がわざわざ来たりしない。

ああ、あの期間は、サブローにとって黒歴史ではなかったのだ。大村三郎*1という名前で、そこにいたのだ。そう思うと涙が溢れ出た。内海が少し好きになった。

 

9回、サブローが最後の打席に立つ。ウグイス嬢の谷保さんが彼の名前をコールする。いつものルーティンワークで打席に入っていく。

相手投手、平野の三球目。外角のストレートをはじき返した。右中間に伸びていく。

飛べ! 飛べ! 声が出る。

打球が芝生に落ち、弾む。ワンバウンド、ツーバウンド、フェンスに当たる。サブローは一塁を回って二塁へ。

ツーベース。

打った、サブローが打った。ライトスタンドではファンが、背番号3のボードを掲げて喜んでいる。内海が再びサブローのタオルを取り出す。

歓声が湧き上がる。サブロー、と叫ぶ声が聞こえる。

 

黒歴史なんかではなかった。あなたは、どこまでもどこまでも慕われていたのだね。それが嬉しくて、嬉しくて。

ありがとう、サブロー。

あなたの思い出は、本当にたくさんあるけれど、それは僕のなかの宝箱に、そっとしまっておこう。ここで書くには多すぎる。そしてまた宝箱に、書ききれないほどの思い出をしまわせてください。

*1:巨人時代の登録名。巨人では基本的に本名での登録名しか認めない

拝啓、十五の自殺する君へ

youtu.be

夜中、中学校に忍び込み非常階段の手すりにベルトを掛けている君へ。

ベルトで首を吊っても失敗します。金具が、あなたの体重で壊れてしまいます。

あなたは落下し、額から血を流し、意識を失うことになります。

 

生きていればいいことがある、なんて言えません。

いいことも少しはあるけれど、悪いことの方が倍以上あります。

あなたは、あの時死ぬことができていたらと何度も思うことになります。

その後も数回首を吊り、失敗します。

二十三歳の時は一年に二度も未遂に終わりました。

 

あなたが今、死ぬことができれば、親が無駄に養育費を払う必要もありません。

将来、自殺直前に両親から「今まで使った金を返せ」と言われることもありません。

鬱で高校に行けなくなることもありません。壊れた身体が痛むこともありません。

手術をする必要もありません。就職活動で疲れることもありません。

涙を流す必要もありません。自分に失望することもありません。

 

でも今、私は生きています。

二十歳を超えても生きています。首にアザがあるけど、生きています。

住所もメールアドレスも電話番号も変えて友達も知り合いも消したけど、生きています。

自分は二十歳まで生きられないと思っているでしょうが、生きています。

あなたを馬鹿にしてきた連中はいい大学に行き就職しますが、生きています。

努力をしないあなたを恨んでいますが、生きています。

50kg未満の体重で病弱ですが、生きています。

過去を悔いてばかりですが、生きています。

 

生きています。

ガラクタ、スクラップ、小さな宝石

体が壊れてスクラップ

病院向かうよガラクタが

 

病室 隣のベット 咳がする

ずっと前から おじいさん ここに一人でいるのだね

訪ねる人などいなくって 話す人もいなくって

ずっと一人でいるのだね

 

夜は咳で眠れずに 静かに一人でいるのだね

咳をしたらば同室の おじさん怒鳴ってきましたね

眠れないぞとおじさんが 怒鳴って騒ぎが起きました

眠れぬ苦しみ本人は 一番わかっているだろう

ただただ謝るその姿 なんだかとても寂しくて

エンエンって咳をして 苦しみ抱く その姿

 

この世に神がいたならば どうか どうか この人を

私などより この人を 退院させて くださいな

ずっと前からここにいる 一人の命を願わくば

せめて見舞いの一人でも 寄こしてあげて くださいな

無題

神よ 頭がいたいです

仏よ 頭がいたいです

これは何かの罰ですか

今まですべてを人様の せいにしてきた罰ですか

努力を怠り愚痴を吐く 愚かな私のせいですか

 

ならばこうした痛みすら 静かに受けてしまいます

無益な自分を心見ます すべての過去を鑑みます

今なら自分以外の何もかも 許せてしまう気がします

 

ならばひたすら痛みをください

怠惰な私を壊してください

 

そのとき私の目の前に 新たな何かが見えましょう

すべてわからず嘔吐する

まだ夏なんだよ、とセミが鳴く。

まだ夏なんだぜ、と入道雲が言う。

 

不安定な天気が偏頭痛を呼び起こす。

頭が割れそうに痛くて叫んでる。

 

登校中の小学生が、もう秋なんだよ、とはしゃいでる。

最後の花火が、もう夏は終わりだよ、と派手に散る。

 

嘔吐する私は頭が痛くて痛くて、ああ、季節がわからない。