芸術的トマソン

私には何もありません。

サブロー、あるいは、大村三郎

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shun.hateblo.jp(上記のブログを拝見したら、書きたくなった)

 

泣くことはないだろう、と思っていた。

なのに、瞳が潤んだ。

 

好きなチームのベテラン選手が引退した。正直に言えば、これは予想できたことだった。引退を表明した際も、「いよいよか、お疲れ様」と悲しいより、ねぎらう気持ちのほうが強かったくらいだ。

 

でも、引退試合の途中で気持ちが変わった。力強いスイングで三振するサブローの姿。打ってくれと願った。ヒットの一本でもいい、打ってくれ。

三打席すべて三振で終えた試合の途中で彼は守備についた。そこで相手チームであるオリックスのファンが、彼のボードを掲げてくれている姿が見えた。

それだけでも嬉しかった。

直後、テレビに映ったのは巨人の選手の姿だった。サブローは、一時期巨人に在籍したことがある。だから、わざわざ来てくれたのだろう。そのなかの一人、内海がサブローのタオルを掲げている光景が見えたとき、嬉しくて涙が溢れた。

 

サブローの巨人への移籍は、"黒歴史"と呼べるものだった。在籍期間はわずか半年ほど。球団側のゴタゴタがあり、移籍してすぐに戻ってきた。

PL-ロッテ-巨人-ロッテ

名鑑などに書かれる彼の来歴のなかで"巨人"の二つは、妙な違和感を覚えさせた。でも、その短い期間、彼は慕われていたのだろう。そうでなければ、巨人の選手がわざわざ来たりしない。

ああ、あの期間は、サブローにとって黒歴史ではなかったのだ。大村三郎*1という名前で、そこにいたのだ。そう思うと涙が溢れ出た。内海が少し好きになった。

 

9回、サブローが最後の打席に立つ。ウグイス嬢の谷保さんが彼の名前をコールする。いつものルーティンワークで打席に入っていく。

相手投手、平野の三球目。外角のストレートをはじき返した。右中間に伸びていく。

飛べ! 飛べ! 声が出る。

打球が芝生に落ち、弾む。ワンバウンド、ツーバウンド、フェンスに当たる。サブローは一塁を回って二塁へ。

ツーベース。

打った、サブローが打った。ライトスタンドではファンが、背番号3のボードを掲げて喜んでいる。内海が再びサブローのタオルを取り出す。

歓声が湧き上がる。サブロー、と叫ぶ声が聞こえる。

 

黒歴史なんかではなかった。あなたは、どこまでもどこまでも慕われていたのだね。それが嬉しくて、嬉しくて。

ありがとう、サブロー。

あなたの思い出は、本当にたくさんあるけれど、それは僕のなかの宝箱に、そっとしまっておこう。ここで書くには多すぎる。そしてまた宝箱に、書ききれないほどの思い出をしまわせてください。

*1:巨人時代の登録名。巨人では基本的に本名での登録名しか認めない