芸術的トマソン

私には何もありません。

本の備忘録:2016年読んでよかった本ベスト3

メモ代わりも兼ねて記録する。

自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間

自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間"を捨てられるか (青春文庫)

 

希死念慮が湧き、すべてを捨てたあとに読んだ本。

友人からの薦めだったが、紹介されたその日に買って読み終わってしまった。

1行目から

「人生は積み重ねだと誰でも思っているようだ。ぼくは逆に、積みへらすべきだと思う」(p.11)

と驚くようなことが書いてある。

財産、知識を積み重ねていくと身動きができなくなり縛られる。逆に捨てれば捨てるほど自由になり、瞬間瞬間を生きることができるのだ、と主張は続いていく。

この時点で薦められた理由がわかった。なるほど、何もかも捨てたあとの開放感を味わった私にはうってつけの本だ。

その後も「他者を気にするな」「いじめられるのではないかという不安にどう立ち向かうか」「好かれるヤツほどダメになる」などの文章が続いていく。

心が弱っているときには毒にも薬にもなる本だが、あえてこの本に挑戦してみるのも手だ。繰り返し読んでいくうちに、物の捉え方が変わり、少し生きやすくなるかもしれない。

本屋やBOOK・OFFで売っていることが多いので、入手もしやすい。

 

提婆達多(でーばだった) (岩波文庫 緑 51-5)

提婆達多(でーばだった) (岩波文庫 緑 51-5)

 

嫉妬に狂い、一生をかけて仏陀に執着し続ける従兄弟、提婆逹多。彼の生涯を描く作品。

仏教に詳しくはないが著者の観点から描かれるストーリーに夢中になった。

提婆逹多が持つ人間のエゴイズムは汚らしく表れる。

一方でまったく心情が描かれていない仏陀の姿は神秘性を通り越し、冷酷に見える。

この対比により、読者は提婆逹多に持つ感情が、嫌悪から同情、共感へと変わっていく。

そうなったところで、最後に提婆逹多に与えられる“救い”についての一文が、強烈に印象に残った。この読後感は忘れられない。

 

不道徳教育講座 (角川文庫)

不道徳教育講座 (角川文庫)

 

 「友人を裏切るべし」「弱い者をいじめるべし」など、一見不道徳に思えることを読者に勧めるエッセイ。そうでありながら、中身を読んでみると道徳的な内容の場合もあり、レトリックに感心する。

また、ユーモアな文章のなかに三島自身の社会や人間に対する深い洞察が現れていて、笑えると同時に自分自身を思い返してヒヤリとすることがある。

例えば前述の「友人を裏切るべし」では、

「友人を裏切らないと、家来にされてしまうという場合が往々にしてある。大へん永つづきした美しい友情などというやつを、よくしらべてみると、一方が主人で一方が家来ということが多い」(p.63)

と書かれている。

「弱い者をいじめるべし」では

「しじゅうメソメソしている男がある。抒情詩を読んだり、自分でも下手な抒情詩を作ったり、しかもしょっちゅう失恋して、またその愚痴をほうぼうへふりまき、何となく伏し目がちで、何かといえばキザなセリフを吐き、冗談を言ってもどこか陰気で、「僕はどうも気が弱くて」とすぐ同情を惹きたがり、自分をダメな人間と思っているくせに妙な女々しいプライドをもち、悲しい映画を見ればすぐ泣き、昔の悲しい思い出話を何度もくりかえし、ヤキモチ焼きのくせに善意の権化みたいに振舞い、いじらしいほど世話好きで……、(中略)こういう男をいじめるのこそ、人生最大のたのしみの一つです。」(pp67-pp68)

と書いている。ここで自分を思い返すのだが、この後の文章でその女々しい男に言い負かされるという少し笑える部分があったりする。

読みやすく、笑えて、価値観が少し変わるかもしれない傑作。

 

この三冊が2016年度ベスト3。なお、上から順に1位、2位、3位というわけではない。

また、1年間に読んだ本は77冊。4月後半から11月半ばまでは本が読める時期だったので実際は7ヶ月ほどの期間。